親知らず

1 親知らずとは

親知らず(智歯)は第三大臼歯とも呼ばれ、人間が産まれてから一番最後に生える奥歯の事を言います。ちなみに余談ではありますが、なぜ親知らずという名前が付いたかというと、昔の人は短命だったために親知らずが生えてくる25歳くらいのときにはすでに両親が亡くなっていることも多く、そのため親を知らずに生えてきた歯という意味で親知らずと名付けられたと言われています。

この親知らずは、現代でこそ問題視される事が多いのですが石器時代のような、人類がまだ原始的な生活をしていた時は、その他の普通の歯と同様に使われていました。これが人類の進化の過程で食生活も硬い肉や穀物を食べていたものが、柔らかいものに大きく変化してきたため、顎骨がだんだんと退化していき正常に生えられなくなった親知らずが原因となって様々な問題を引き起こすようになったのです。



2 親知らずの問題点

現代人のような顎骨の退化してしまった人類にとって、親知らずは様々な問題を引き起こします。親知らずが原因となって引き起こされると考えられている病気には

  • むし歯
  • 歯周病
  • 不正咬合

の三つがあります。それぞれについて解説していきます。

①むし歯がなぜ起こりやすくなるか

親知らずが斜めや横に生えてくると手前の歯に引っかかってしまってそのまま萌出を止めてしまいます。すると手前の歯と親知らずとの間には複雑な隙間ができてしまうため、そこにはまり込んだ食べかすが、日々の歯みがきでも取り除かれる事無くそのままにされてしまい、それが原因となってむし歯になってしまいます。たまに「親知らずはどうせ要らない歯なんだったら痛くなってから抜くのでそのままで良いです」と言われる患者様がいらっしゃるのですが、確かに親知らず自身は不要な歯なのでそれでも良いのかもしれませんが、むし歯ができる際には多くの場合、親知らずだけでなく手前の大事な歯も道連れにしてむし歯となるケースが多いため、その様に考えるのは大変危険です。

②歯周病について

歯周病は食べかすや磨き残し、プラークが原因となる歯ぐきや周囲の歯槽骨の感染症です。むし歯ができる原因と同じく親知らずとその手前の歯との隙間には、歯周病の原因となる食べかすなどが詰まりやすく、日々の歯みがきでも容易に取り除く事はできません。そのため、歯周病が大変起こりやすくなります。また、それだけでなく、親知らずの歯冠周囲には元々骨が無く、歯と歯ぐきに大きな隙間ができやすいため、歯周病でなくとも歯周ポケットが出来てしまう事が多く、それによっても歯周病を起こしやすいと考えられています。歯周病のページでも触れましたが、一度歯周病になってしまい、溶けた骨は元に戻る事はありません。親知らずが原因となる歯周病は多くの場合手前の歯の根っこの周囲の骨も溶かしてしまい、奥歯の寿命を縮める大きな原因になります。

③不正咬合について

不正咬合というのは出っ歯とか八重歯とかしゃくれとか、いわゆる歯並びが悪くなることを言います。なんで、親知らずが原因となって歯並びが悪くなるかというと、親知らずは横向きや斜めに生えてくる事が多く、それによって既存の歯に横方向の力がかかることにより引き起こされます。歯並びについても一度悪くなったものは例え親知らずを抜いたとしても元には戻りませんので、そうなる前に親知らずを抜いておく事をおススメします。


3 抜かなければいけない親知らず、抜かなくてよい親知らず

親知らずは、全ての親知らずは抜かなければいけないのかというと、それは間違いです。たとえば顎骨のしっかりした方でまっすぐ親知らずが生えている場合であれば、これは正常な第三大臼歯として残した方が良いと思います。あるいは、顎骨の奥深くに埋まっていて外に出てこない可能性が高いものについては、抜くことの大変さやリスクと、それによるメリットを天秤にかけてみて前者の方が上回る場合は抜かずに様子をみるというケースもあります。ただ、多くの場合は抜いたほうが良いケースがほとんどです。奥歯の歯ぐきに違和感を感じ始めたり、炎症を繰り返すようであれば放っておかず受診されることをおススメします。後でも触れますが、親知らずの抜歯は周囲の骨から脱臼させて抜くため骨が柔らかい若い内に行う方が抜歯も楽に済むことが多いです。


4 親知らずの抜歯について

一般的に抜歯の際に用いられる器具にはヘーベル(マイナスドライバーのような器具で歯と骨の間に入れて歯を脱臼させます)、鉗子(ペンチのようなもので歯を掴んで骨をあまり痛める事なく脱臼させます)などがあります。ある程度表に出ている親知らずであればこのどちらかで抜くことができるため通常の抜歯と変わりありません。問題は斜めや横向きに生えた親知らずの抜歯の場合で、抜歯の手順が増えるため、すこし難しくなります。

斜めや横向きの親知らずの抜歯の流れ

  1. ステップ 1

    術前にレントゲンやCTを撮ってリスク分析を行います。
    親知らずは稀に神経(下歯槽神経)と接している場合があるため、神経損傷のリスクを事前に評価する必要があります。

  2. ステップ 2

    親知らずの上を覆う歯ぐきを切開して開きます。(約5分)

  3. ステップ 3

    親知らずの歯冠を表に出すために周囲の骨を一部取り除きます。(約5分)

  4. ステップ 4

    手前の歯に引っかかってそのままでは親知らずを取りだせないため、切削器具を用いて歯冠と歯根に二分割してから歯冠を取り除きます。(約5~15分)

  5. ステップ 5

    最後に歯根をヘーベルで脱臼させて取り除きます。(約5~15分)

以上が大まかな親知らずの抜歯の流れとなります。この後必要であれば縫合を行います。
手術時間としては熟練した口腔外科のドクターでだいたい30分くらい、親知らずの埋まっている深さや向き、骨の硬さによっては60分ほどかかる場合もあります。そのため、一般歯科しか対応していない歯科医院などでは大学病院を紹介されるケースが多いです。
当院では親知らずの抜歯に力を入れており、術後に腫れが生じにくい抜歯を心がけています。親知らずの抜歯を検討されている方はぜひ一度ご相談ください。


5 抜歯後の注意点

抜歯後は処方された抗生剤と痛み止めを服用してください。抗生剤は必ず処方された分全て服用するようにお願いします。また、痛み止めに関しては術後麻酔が切れる前に初回服用しておくと痛みが少なく楽です。以降については痛みを感じたら追加服用するようにしてください。抜歯後1~2日は多少出血によって口の中が血の味がすることがありますが、心配いりません、量が多く気になるようであればガーゼのようなものを硬く折りたたんで抜歯部に乗せて強く咬んで圧迫止血を行ってください。

圧迫止血を行ってもなお、大量に出血が続くようであれば医院にご連絡ください。抜歯後1~2日が痛みのピーク、3日目が腫れのピークになります。また、抜歯後翌日になっても唇のしびれが収まらない場合は必ず消毒の際に担当ドクターに報告をお願いします。親知らずの抜歯によって0.1%ほどの確率で下歯槽神経に麻痺が生じると言われています。滅多にない事ではありますが、その場合はしばらくの間神経の修復を促すためのビタミン剤を服用して頂く必要があります。